
「42 Tokyoは社会人でも通えるのか?」と思っているのなら、ぜひ本記事を読んでほしい。
42 Tokyoは2020年に設立されたエンジニア養成機関だ。すべての人に挑戦する機会を与えるため、学歴・経歴不問で入学希望者を募集している。
とはいえ、本当に社会人にも門戸を開いているのか、疑念を抱く者も多いのではないだろうか。
そこで今回は、42 Tokyoの社会人事情について記事にまとめた。現在42 Tokyoで学んでいる私が、飾ることなくスクールの内情をお伝えしたい。
結論から言えば、以下の2点さえクリアできれば、社会人でも働きながら42 Tokyoで学習できる。
- 入学試験(Piscine)の4週間フルコミットできる
- 入学後は週30時間ほどのコミット量を確保できる
時間さえコンスタントに確保できるのであれば、社会人でも42 Tokyoでの学習は可能だ。むしろ働いているからこそ得られる気づきも多いだろう。
もし本記事を読んで入学への道筋がついたのなら、さっそく4週間の試験「Piscine」に申し込んでほしい。
目次
42 Tokyoとは?完全無料のエンジニア養成機関
42 Tokyoは東京・六本木にあるソフトウェア・エンジニアの養成機関だ。フランス・パリを本部とする教育ネットワーク「42」の日本校として、2020年春に誕生した。
42 Tokyoが一般的なプログラミングスクールと異なるのは、高度な教育が無償で提供されている点である。「すべての人に挑戦する機会を与えること」を理念に掲げ、DMM.com主導のもと、複数企業の出資を受けて設立された。
社会貢献を目的とした非営利の団体であるが、42 Tokyoで受けられる教育の質は非常に高い。コンピューター・サイエンスを学ぶ上で、情報系の学士・修士相当の知識を得ることができる。
42 Tokyoの設立背景や教育方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせて読んでほしい。
在校生の年齢比率は?20~24歳が最も多い
現在、42 Tokyoに在籍している学生は400人超。このうち最も多い年齢層は20~24歳、次いで25~29歳となっている。
若者が大きな割合を占めるのは当然だが、42 Tokyoは一般的な教育機関より社会人の割合が高い。
私自身は29歳(執筆時)で、平均よりもやや年長にあたる。だが、Piscine受験から42 Tokyoに在籍している現在まで、他学生との年齢差を感じたことはほとんどない。
課題のコードレビューは対等な関係で行われるし、質問や疑問があれば快く答えてもらえる。気を遣うことも遣われることもなく、ピアラーニングの環境としては十分すぎるくらいだ。
卒業後の就職先は?実績はまだまだ不十分
42 Tokyo卒業後の就職先に関しては、まだ十分なデータが出揃っていない。
厳密に言えば、42には「卒業」の概念がない。就職や転職など、学生は自身の目的を達成したタイミングで42 Tokyoを離れていく。
学生の主な就職先については、オンライン説明会で次のように公表されている。
もちろん、新卒採用と中途採用では事情が大きく異なる。42 Tokyoでは基本的に就職先の斡旋を行っていないため、社会人は自力で企業を探さなければならない。
社会人が42 Tokyoで学ぶ3つのメリット
基本情報を確認したところで、42 Tokyoに社会人が入学する意義について考えていこう。
社会人が42 Tokyoで学ぶメリットとしては、以下の3つが挙げられる。
- 経済的な問題を気にせず学び直しができる
- プログラミング以外のスキルも身につく
- 実利を抜きにした人間関係が構築できる
ここからは、各項目について具体的に考えていきたい。
メリット1:経済的な問題を気にせず学び直しができる
すでに述べた通り、42 Tokyoは一切の学費が発生しない。これは金銭的に困窮する学生だけでなく、社会人にとっても大きなメリットだ。
たとえば、社会人が大学に入り直す場合、おおむね以下の学費が必要となる。
国公立大学 | 私立大学 | 放送大学(私立) | |
授業料 | 53万円 | 93万円 | 18万円 |
入学料 | 28万円 | 24万円 | 24万円 |
※文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果」より概算
一般的なプログラミングスクールに通う場合はどうだろうか。株式会社TAG STUDIOの調査によると、プログラミングスクールの受講生は平均37万円の費用を支払っている(「プログラミングスクールに関するインターネット調査」)。
同調査の興味深い点は、支払い料金が高いからといって、満足度も高いわけではないことにある。むしろスクールの満足度が最も高かったのは、支払い総額1万円未満の受講生であった。
メリット2:プログラミング以外の実践的なスキルが身につく
42 Tokyoに在籍していると、プログラミングスキル以外の能力も自然と身につく。これは通常のスクールや通信制大学には見られない特徴だ。
最も顕著なものは「問題解決力」——目の前の課題を適切に見極め、自らの考えで解決に導ける能力——であろう。
42 Tokyoの課題は非常にハードルが高く、初見では手も足もでないことが多い。ほとんどの学生は、課題の解釈さえままならない状態からスタートを切る。
これが普通の学校であれば教師がゴールまで正しく導いてくれるのだが、42 Tokyoにメンターはいない。頼りになるのはインターネットや書籍の情報であり、他の学生の意見である。
もがき苦しむ中で、徐々に問題解決への道筋が立つ。ひとつのアイデアが仮説に変わり、検証のためのプロトタイプが生まれ、最終的なテストを経て完成に至る。
PDCAサイクルと言えばそれまでだが、42 Tokyoは通常よりも高い精度を目指し、素早い頻度で回していくイメージだ。
メリット3:実利を抜きにした人間関係が構築できる
もうひとつ、豊かな人間関係を構築できる点も42 Tokyoの特徴だ。
社会人になると交友関係が狭まる。会社は目的と能力を同じくする人間が集まりがちで、多様的な集団であるとは言い難い。けだし、実利を抜きにした付き合いなど学生時代の特権だったのではないだろうか。
42 Tokyoはピアラーニングを理念に掲げていることもあり、学生間の雰囲気が非常に良い。相互扶助の精神が共有されており、課題以外での質問や相談もしやすい環境だ。
もちろん、このように多様な関係性が仕事につながることも多い。チャットツール上では学生同士によるジョブオファーが活発に行われているため、機をうかがっている人は積極的に参加してほしい。
また、42 Tokyoには学内サークル(アソシエーション)が存在する。起業やアプリ開発、写真などサークルの活動目的はさまざま。もちろん、申請すれば新しいサークルを立ち上げることも可能だ。
42 Tokyoは社会人でも合格できる?4週間はフルコミット必須
社会人が42 Tokyoで学ぶメリットを述べてきたが、実際に入学するためには試験を受ける必要がある。
42 Tokyoの入学試験は「Piscine」(ピシン)と呼ばれる4週間の耐久テストだ。Piscineは世界各国の42ネットワークで共通の試験であり、エンジニアとなるために必要な忍耐力・協調性・思考力などが問われる。
明け透けに言えば、Piscineはフルコミットが前提の試験だ。このことは公式FAQで明記されており、試験を受けた実感としてもその通りだと思う。
もちろん、働きながら合格するのは不可能とまでは言わない。ただ、Piscineは単にプログラミングの技術と知識が問われる試験ではないため、「要領が良ければ簡単に合格できる」類のものではない。
正直、フルタイムの仕事をしながらPiscineに合格するのは、現役エンジニアでも難しいといえるだろう。
なお、Piscineの仕組みや合格するためのポイントについては、以下の記事を参考にしてほしい。
42 Tokyoは社会人でも通える?入学後のカリキュラムと制度
ここからは、社会人が42 Tokyoに入学した後の過ごし方を解説していく。
42 Tokyoへの入学を希望するにあたって、事前に知っておきたい制度は以下の3つだ。
- 試験(EXAM)
- 退学制度(BH)
- 休学制度(AGU)
さらに上記を踏まえた上で、カリキュラムを進めるために必要な学習時間も把握しておきたい。
それでは、順番に解説していこう。
試験(EXAM):来校する必要があるのは数回のみ
現在の42 Tokyoはオンライン学習に対応しているが、「EXAM」と呼ばれる試験の日だけは校舎に足を運ぶ必要がある。
EXAMは学習の到達度にあわせて6回設けられており、すべて合格しなければ基礎課程を修了できない。地方に住んでいる人にとって、わざわざ六本木に来校するのは面倒に感じられるかもしれない。
とはいえ、EXAMを受験するタイミングは任意であり、カリキュラムが進んだ後にまとめて片付けることが可能だ。受験可能日はほぼ毎週設定されているので、スケジュール調整も行いやすい。
また、たとえEXAMに落ちたとしても、在学している限りは何度でも再受験できる。EXAM以外の必須課題はオンラインで完結しているので、基本的にはおおらかに構えていてほしい。
除籍(BH):課題提出があまりに滞ると強制退学になる
42にはブラックホール(BH)と呼ばれる制度がある。すべての在校生はBHまでの猶予期間が与えられており、課題をクリアするごとに日数が加算されていく。いつまでも課題に取り組まず、残り日数が0になると、強制的に退学となる仕組みだ。
入学早々、システム画面にBHまでの残り日数が表示されるため、最初は尻に火がつけられた気がすることだろう。残念ながら、42 Tokyoでは一定数の学生がBHに飲み込まれ、退学せざるを得ない状況となっている。
とはいえ、BHはある程度の余裕を持って設定されており、最低限の学習時間さえ確保できていれば恐れる必要はない。退学となるのは、純粋に学習意欲を失った場合や、就職や転職などで自らの目標を達成した場合がほとんどだ。
休学(AGU):最大180日間は在籍したまま学業を休める
その他、42には「AGU」と呼ばれる休学制度が用意されている。AGUを取得すると学習システムへのログインや課題の提出ができなくなる代わりに、BHまでの猶予がストップする仕組みだ。
AGUを取得できる期間は全体で180日間。この日数を最大3分割して申請することができる。
- 100日+30日+50日
- 100日+80日
- 180日
42 TokyoにおけるBHの取得率は高く、2022年春の時点では全学生の半数以上が休学している。学生の場合は就活、社会人の場合は仕事の繁忙期に取得するケースが多いようだ。
もちろんBHによる退学を回避するために申請することも可能だが、AGU中は課題改訂などの情報が一切遮断されるため、復学に向けたキャッチアップは必須となる。
基本的にBHは学外の活動を優先するための制度なので、できるだけAGUに頼らず、余裕のある学習計画を立てておきたい。
学習時間の目安は?週30時間ほど確保したい
それでは、どれくらいの学習時間があればBHによって退学にならず、カリキュラムを修了できるのだろうか?
一概には言えないが、ここでは週30時間以上をひとつの目安としたい。
というのも、公式FAQでは課題をこなすために「週平均35時間(毎日5時間程度)以上の学習時間が必要」と述べられているからだ。
事実として、カリキュラムのLevel.4(基礎課程の半分程度)に達している学生のうち、半数近くは週20時間以上を学習に充てている(オンライン説明会より)。
もちろん社会人にとって、働きながら週30時間を確保するのは簡単ではない。平日は3時間ほど学習できるとして、週末はほぼ潰れる計算になる。
家庭を持っている場合はパートナーの理解が必要であるし、そうでなくても趣味の時間を犠牲にしなければならない。
それでも、仕事と42 Tokyoを両立している学生は一定数いる。スケジュール管理に気を遣えば、上述した学習時間を確保するのは不可能ではない。
42 Tokyoは授業時間の縛りがない分、通信制大学より融通がきく側面もある。少なくとも1~2年間は見据えた上で、学習計画を立ててみてはどうだろうか。
結論:社会人こそ42 Tokyoで学び直しを図るべき
本記事では、エンジニア養成機関「42 Tokyo」で社会人が学ぶ意義について述べてきた。
終身雇用制度の崩壊とともに、働き方の多様化が叫ばれるようになって久しい。転職や副業を考える上で、コンピューター・サイエンスの知識が役に立つことは必至だ。
とはいえ、プログラミングを学ぶ目的は、新たなキャリアの構築のみに留まらない。論理的思考力や問題解決能力、創造性など、すでに身を置いている環境に還元できるスキルも多いはずだ。
何より、プログラミングには知的生産の快楽がある。針に糸を通すような論理を組み上げ、0から1を作り出すのは非常に楽しい。生涯学習として取り組むには、十分すぎる主題ではないだろうか?
セネカが言うように、「真の幸福とは現在を楽しむことである」。人生の短さを嘆くより前に、私たちにはまだまだ挑戦すべきことがあるはずだ。
あなたの人生を最大限に楽しみたいなら、ぜひ42 Tokyoの入学試験「Piscine」にチャレンジしてみてほしい。